私は、ここ十数年「漣(レン)」シリーズといわれる、
簡素なコスチューム、貫頭衣を着た女性像彫刻に取り組んできた。
この「漣(レン)・風」は2007年、東京で開催した個展で発表したもので、
粘土で原型を制作しブロンズに鋳造したもので、
私の気に入っている作品の一つである。
貫頭衣を纏って真直ぐに立ち、両掌で風を受け、
全身で風を感じている女性をイメージした。
シンメトリーなポーズは、安定した静寂な空間と
緊張感を作り出すとともに、動きを極力抑えることで、
深い精神性と温もりを表現している。
東北の地、山形に来て二十年近くになるが、東京育ちの私にとって、
春、夏、秋、冬と姿を変える遠くの山々や樹木、空気、水、土、風、
すべてが新鮮で、改めて「自然」の存在を実感した。
時にはその美しさに引き込まれ、またある時はその厳しさに震撼した。
「自然」は安らぎを与えてくれる友であるが、
激しく挑みかかるライバルでもあった。
毎日の生活の中での「自然との対話」は
心のデッサンのトレーニングであり、
作品を生むエネルギーの源となった。
「漣(レン)」シリーズはこうした「対話」と
貫頭衣との出会いから生まれた作品であり、
それまで裸婦を中心とした人物像が多かった私にとって、
大きな転機となった。
「自然」は私の彫刻の原点であり、
これからも「自然」から目と心を逸らすことなく
作品に取り組んで行きたいと思う。
山形大学地域教育文化学部
文化創造学科 造形芸術コース
雨宮 透
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